その瞬間は工具顕微鏡をのぞき込んでいた。
と、言う事で、その瞬間は珍しく現場に居た。
普段の仕事はデータ制作なだけに、現場に居るてーのはかなりレアだ。
しかも顕微鏡の先にあるものは夏頃に量産が始まる新製品。
現場の作業員を差し置いて加工と検査とはこれいかに?!
今年の仕事量は異常で、同時期に数社数種のカメラ製品の量産が始まる。
カメラ製品の場合、本格的な量産に先だって流動試験があるんだけど、このタイミングにそれぞれの試作が集中してしまった。
ウチの会社には製造の責任者が四人いて、今回のカメラ製品については二人の責任者が半々で担当している。
カメラ製品に関してはウチで扱う製品の中では量産数が飛び抜けて多く、さらには生産期間も長い。
そのせいか量産前の手順はウチで扱う他製品に比べて圧倒的に煩雑で、各種書類の作成や検査内容等々でかなりの手間を取られる。
そんな試作の締め切りを目前に控えた数日前、カメラ製品を担当していた責任者が風邪によりダウンした……
とはいえ責任者はまだ3人居る……はずなんだけど、一人は別部門を丸々担当してる為に加工部門を担当する余裕はない。
もう一人の責任者は現行流動品の殆どを担当していてまったく余裕がない。
カメラ製品他を担当している責任者もこれ以上仕事を増やす余裕は無い。
締め切りは来週の月曜日。
カメラ製品以外の新製品を担当するようになったその他従業員に任せるにもハードルが高すぎる。
加工内容を熟知していてそれなりに検査も出来る人間は……
「加工データを作ったお前しかいない!」
マジデ?! (゜Д゜)
ということで、久しぶりに現場で作業をすることになってしまった。
因みに、社内で使う加工データのほぼ全てはおいらが作っている。
というよりデータ作成部門としては一人しか居ない。
そんな訳で普段から1つの製品の製造を担当するという事はまず無いんだけど今回ばかりは事情が違う。
「ある程度のサポートはするから!」という後押しを受けてまさしく数年ぶりに現場に立った。
機械の操作はそもそもデータを作ってる事もあって戸惑う事はない。
が、工具類に関してはむしろ後輩の方がスムーズに扱える。 ( ̄。 ̄;)
部分的に後輩のサポートを受けつつ加工。
そして寸法チェック。
段々勘を取り戻してきて動作もややスムーズとなり、連続加工前の最後の寸法確認の為工具顕微鏡を覗き込み……
ぐら……
視界が揺れた。
工具顕微鏡は視界が狭く、1,2mmずれると視界の半分が消えてしまう。
機械と顕微鏡の間を何往復もしてるし、ちょっと疲れが出たかな?
とも思ったけどなんか違う。
顔を上げて外を見ると隣の家の庭に植えてある木が水平に揺れているのが見える。
風に吹かれてしなってる動きとは明らかに違う。
この感じどこかで……
新潟県中越沖地震の時に似てる!
2007年7月16日。
月曜日ではあるけど海の日の祝日ということでこの日は休み。
だがしかし!
その当時に会議で決まった“社員全員分の名札を作ろう!”に従い、機械の空いたこの休みの日を使って一人黙々と名札を作る作業をしていた。
7月の中旬。
本格的に暑くなる一歩手前で、窓を全開にすることでぎりぎり冷房を使わずに作業出来る気温だ。
何人目かの名札をセットし、機械のスタートボタンを押す。
機械の動作を確認したところで窓辺移動し、外から入る微妙な風で涼む。
と、なんとなく地響きの様な音が聞こえた気がする……、と思った瞬間会社全体が揺れ始めた。
最初はそれほど強い揺れじゃ無かったんだけど、何故か“阪神・淡路大震災”の記憶が蘇ってきた。
1995年1月17日当時は大阪市に住んでいて、明け方だからある程度睡眠は浅かったとは思うけど、それでもどつかれる様な衝撃で即刻目を覚ました覚えがある。
気のせいかもしれないけど、あの時もベランダからなんとなく地響きの様な音を聞いた……、というか感じた。
まぁ、恐らくその時の記憶が蘇ったんだろう。
そうと来たら落ち着いてる場合じゃない!
とか考えてる間に揺れの本体が来た。
機械が大きく揺れる、跳ねる。
そしてこの時頭に浮かんだのは……
・機械を一旦停止させて……
・ここ床崩落せんよな?(築30年以上の2F作業場)
・床落ちた場合は壁の方に居た方が有利かな?
・あー外揺れてるなー、これは流石にヤバイか。
・死ぬ……んだろうか?
しかし、結論が出ず固まってる間に揺れは収まった。
この時の諏訪の震度は4。
デカイ!
後々に“新潟県中越沖地震”と名付けられた地震をこんな感じで体感していた。
そんな経験から「この地震は大きくなるんじゃね?」とか思った。
すると予想通り揺れの幅がどんどん大きくなる。
「これはヤバイかもしれん!」と検査室から工場内に戻ると……
みんな普通に仕事をしていた!? (・д・)
蛍光灯を見ると結構大きく揺れている。
一番近いところに居る係長に声を掛けて、「結構デカイ地震ですねー」とか言ってみると……
「え! 地震?! あ、ほんとだ!!」
気付いてなかった…… (・∀・)
しかも工場内に居た全員が気付いてなかった!
朝から晩まで立ちっぱなしの上、かなりの騒音の中一点集中で作業してるおかげか本気で気付いてなかった模様。
ふと外を見ると、座り仕事をしている事務の社員と一部役員が脱出を完了していた。
そして頻りにこちらに向かって手を振っている。
いや~、えらい揺れですな~ みたいなリアクションを返すとさらに大きく手を振った。
つか手招きしていた!
数秒脳内でクエスチョンマークを浮かべた後、その手招きの意味が「逃げろ!」と言ってる事にようやく気付く。
放送すればえーやんか! (`Д´)
とか思いつつも工場内で黙々と作業している6,7人に声を掛け一緒に脱出。
しかし揺れはまだまだ収まらない。
それどころか、周りに止まっている車が「中で人が揺すってるんじゃないのか?!」てな勢いで揺れていて、尚も地震が継続中なのが解る。
暫くかかってようやく収まった……と思う。
何しろ揺れが大きくいつまでも揺れが続いてるような気がして仕方が無い。
とはいえ池の水なんかが安定してるのを見ると間違い無く収まったようだ。
と言うことでここでようやく作業を再開。
しかしその後も大きめの余震により何度も作業を中断。
今日中に試作をやりきる予定がまさかの翌日持ち越しとなってしまった……
月曜日には親会社に品物が届いている必要があるから休日出勤する他無い。
まぁ、仕事としてはかなり良い部類の仕事になるし、気持ちよく休出するとしますか。
下請け的にはとりあえず仕事が出来る状況なら仕事する他無いゲンジツ。
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